待つ

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2013-09-10 15.11.08.jpg待つ

今日は秋空ですがすがしい。
重い腰を上げ今日も頑張ってみようと思うがやはりそうはいかなかった。空が高い。赤とんぼも飛んでいる。でも今日はあの場所へ行かなければ。簡単に身支度をしていく。洋服は洗濯したてのシャツ、下はそこら辺においていたジーンズでいいや。朝ごはんはあの場所でいい。近くにはレストランがあったはずだ。軽食も置いていたはず。

玄関を開け階段を降りる。久々見た世界だ。外に出ないとわからないこともある。シャツ一枚では少し肌寒かった。それでも乗りなれた自転車であの場所まで行くと暖かくなるはずだ。自転車にまたぐとやはり足が竦む。この思いだけは消えないから。それでもあの場所へ向かわなければ。向かわなければきっと進めないから。

平日だからと言って少なくはない公園。図書館や美術館も隣接しているからか人はそこそこいる。君とはここで出会った。あの日もこんな秋の日だったね。奥の方へ進んでいる。紅葉が進んでおり、葉が赤色へ色づいていく。とてもきれいだ。君と眺めたかった。

君との待ち合わせ場所へ着いた。ホットコーヒーとホットドックを買って、席に着く。君は来ないけど、今日は一日待とうと思う。日も高くなり人もだんだんと朝よりも多くなってきた。老夫婦だけでなく、若いカップルも。あの日もそう過ごす予定だったのにね。だんだんと君との思い出が溢れ出る。あの日の喧嘩、暑い日の君の手のぬくもり、突然のキス。いろんな君との思い出。自然と涙が溢れていた。そして涙に気付いた時には日が暮れていた。もう帰ろうとした瞬間声をかけられた。

「今日はありがとう。」
「いいえ、僕ももう進まなければいけません。そのための今日だったので。」

そこに立っていたのは君のお父さん。今日という日をここで過ごしたのは僕だけじゃなかったようだ。これで前に進まなければいけない。進まなければ君に申し訳ないから。

今日は待った。明日からはずっと進んでいくよ。
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